本文抜粋
お金がないことが人をどれほど追い詰めて、ボロボロにするのか。そのあらゆるパターンを、わたしは見たと思う。
かなしいことほど、いつまでも覚えているのはなぜなんだろうね。かなしくても、わたしにとってはぜんぶ、忘れられない、大切な思い出だけど。
私が育ったのは、高知県の浦戸っていう、漁師町だった。
生まれて初めて触ったお金には、魚のウロコや血がついていたのを覚えている。漁師さんたちは漁にでて、水揚げした魚を触ったその手でお金のやりとりをする。荒っぽいから稼いだお金をいちいち財布にしまったりなんかしない。素手でポッケにねじこんじゃう。だから、この町を回ってるお金からは魚の匂いがした。
わたしはこの町で生まれて、6歳まで暮らした。
お母さんが離婚して、わたしのお兄ちゃんを連れて、実家のある浦戸に戻ってきたの。
このとき、わたしはまだお母さんのお腹の中にいたんだよ。これから赤ちゃんが生まれようとしているのに離婚したんだから、よっぽどのこと。
わたしと血のつながったお父さんは、お酒を飲むと手がつけられないほど暴れたらしい。お母さんは子供たちを守るために離婚して、自分が生まれた町に帰ってきた。お父さんはアルコール依存症で、私が3歳のときにドブにはまって死んだ。だから私には血のつながったお父さんの記憶がない。
でも寂しくはなかった。
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