著者:苫米地英人
本文:144ページより
なぜ成功体験を積むことが重要なのか?
セロトニンやドーパミン、アドレナリンなどの神経伝達物質や内分泌物質が、スポーツのパフォーマンスの良し悪しに深く関係していることはすでにお話ししました。
なかでも、パフォーマンスを向上させるうえでポイントとなる物質が、セロトニンとドーパミンです。これら二つの神経伝達物質によって、本番直後の理想的な状態をつくりだすことが、次のパフォーマンスをさらに高めることにつながります。
セロトニンは、基本的にはアドレナリン、ノルアドレナリン、ドーパミンなどの興奮系物質を抑制する役割があり、交感神経優位の緊張状態時にアドレナリンやノルアドレナリンが多く分泌されるほど、それを抑制するために大量に放出されます。
ほかにもセロトニンにはメラトニンの前駆物質としての役割があります。セロトニンからメラトニンが合成され、それが睡眠を誘発するのです。
本番直後の副交感神経優位の状態でセロトニンが分泌されるのも、その前段階でアドレナリンやノルアドレナリンが分泌されているからです。交感神経優位が極度の緊張から解放されて、「やったー!」というリラックス状態に変わると、副交感神経が優位になってセロトニンが大量に出ます。
ただし、セロトニンは脳内の前頭前野にはあまり作用しないため、セロトニンが大量に分泌されても、前頭前野にはドーパミンがしばらく流れたまま興奮状態が続いている場合があります。じつは、これがもっともハッピーな恍惚状態なのです。
その後、脳と体はさらにリラックスして副交感神経の優位がさらに強まり、前頭前野へのドーパミンの流出は止まります。そしてセロトニンはメラトニンへと変容し、「腹が減ったなあ」「眠いなあ」という深いリラックスが訪れます。
さて、大切なのは深いリラックス状態になる直前、セロトニンが出はじめて全身に幸福感が広がりつつあるけれども、いまだドーパミンも前頭前野に残っていて興奮も完全には冷めやらない状態。このセロトニン&ドーパミン状態を何度も経験することで、強い「プライミング」が形成されます。
プライミングとは、先に受けた刺激によって、後続する刺激に対する認知や判断が影響を受け、特定の行動が促進または抑制されることを指します。つまり、先行刺激をコントロールすることができれば、あとに続く行動もコントロールできるようになります。一種の洗脳の技術です。
物事を上達させるには「成功体験が大事」と言われる理由がここにあります。目標を達成して「やったー!」と喜ぶ体験を積み重ねると、セロトニン&ドーパミン状態のプライミングがつくられ、次に本番を迎えたときには、さらに大量のセロトニンやドーパミン、アドレナリンが放出されて、より落差の大きなリラックス・緊張のサイクルを生み出すことができるようになり、結果としてパフォーマンスも向上するのです。
ですから逆にいえば、目標を達成した経験がないとセロトニン&ドーパミン状態のプライミングをつくることができないため、体内物質の分泌量を増えず、リラックスと緊張の大きな落差が生まれません。よってパフォーマンスは上がっていかないのです。
プレーヤーとして成長するためには、とにかくゴールを達成して、セロトニン&ドーパミンが大量に分泌された、より強い幸福感を何度も経験することが重要なのです。